再生医療等製品

再生医療等製品#8 ゾルゲンスマ

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販売名ゾルゲンスマ®点滴静注 (Zolgensma)
一般的名称オナセムノゲンアベパルボベク
(onasemnogene abeparvovec)
製造販売者ノバルティスファーマ株式会社
対象疾患脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、
遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測
されるものも含む)
2歳未満の患者が対象
承認日/保険収載日2020年3月19日/2020年5月20日
保険償還価格1億6707万7222円 (保険償還価格の算定)
関連文書添付文書 (PMDAウェブサイト)
審査報告書 (PMDAウェブサイト)
申請資料概要 (PMDAウェブサイト)
インタビューフォーム

 

【製品概要】

ノバルティスファーマ ゾルゲンスマ情報ページ

ゾルゲンスマ®点滴静注(以下、ゾルゲンスマ)は、遺伝子疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品であり、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(SMN)タンパクをコードする遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)ベクターです。静脈投与されたゾルゲンスマは、脊髄中の運動ニューロンに侵入しSMNタンパクを発現することで運動ニューロンの死滅を防ぎ、生命予後および運動機能を改善させます。これまでのSMA治療薬では、4ヶ月ごとの持続的な投与が必要であったのに対し、ゾルゲンスマは1回の投与により治療効果が得られる画期的な治療薬です。製品名は、単回(sole)の遺伝子(gene)投与によるSMA治療薬の意味に由来し、ゾルゲンスマ(Zolgensma)と名付けられました。

2020年に承認され、約1億6700万円と国内初となる1億円を超える薬価が付けられました。保険償還価格の算定における市場規模予測では、ピーク時の患者数25人、販売金額42億円と予測されています。

このように画期的な新薬である一方で、先駆け審査指定制度の対象品目であるにも関わらず、申請者であるノバルティスファーマ社が同制度を事実上活用せず、承認審査が長引いたことが問題視されています。

 

【対象疾患と作用メカニズム】

対象疾患

遺伝性の希少疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)が対象です(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査によりSMAの発症が予測されるものも含む)。SMAでは運動神経細胞生存タンパク(SMN; Survival Motor Neuron)をコードするSMN1遺伝子の欠失または変異によりSMAタンパクの発現量が減少し、運動神経細胞(運動ニューロン)の変性および細胞死を生じます。その結果、筋力低下による運動障害、呼吸障害、嚥下障害等が起こり、重篤な場合は死に至ります。SMAは、発症年齢や最高到達運動機能から下表のようにI~IV型に分類されます。10万人当たり1~2人に発症するとされ、国内の患者数は858人(2018年)です。ゾルゲンスマの投与は2歳未満の患者が対象となっています。

SMAの分類 (出典:難病情報センター 脊髄性筋萎縮症(指定難病3))

 

構造および作用メカニズム

ゾルゲンスマ ベクター構造 (出典:ゾルゲンスマ インタビューフォーム)

ゾルゲンスマは、ヒトSMN遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)ベクターです。静脈投与されたゾルゲンスマは、血液脳関門および血液脳髄液関門を通過し、効率よく運動ニューロンに侵入します。侵入後、核内へ移行した後、ヒトSMN遺伝子をコードしたDNAを放出し、SMNタンパクを発現します。

 

ゾルゲンスマによる遺伝子補充療法(イメージ図) (出典:保険償還価格の算定)

 

放出されたDNAはゲノムに組み込まれることなくエピソームとして核内に留まり、CMVエンハンサー/CBプロモーターの制御下で安定的かつ持続的にSMNタンパクを発現するため、単回投与で長期間の治療効果を得ることができます。

 

【保険償還価格】

ゾルゲンスマには、単価としてそれまでの国内史上最高価格、かつ初の1億円超えとなる「1億6707万7222円」の保険償還価格が設定されました。原価計算方式ではなく、類似薬効比較方式として同じくSMA治療薬である「スピンラザ」(バイオジェン社)との比較により、この価格が付けられました。

スピンラザは2017年に承認されたSMAを対象とするアンチセンス核酸医薬です。SMN1遺伝子のバックアップ遺伝子であるSMN2遺伝子に作用し、機能的な正常SMNタンパクを産生させます。949万3024円の薬価が設定されましたが、最初の2ヶ月間に4回、その後4ヶ月ごとに投与を続ける必要があるため、1年目に約5696万円、それ以降も毎年2848万円の治療費用がかかります。

それに対してゾルゲンスマは単回投与で長期間の治療効果が得られるため、ゾルゲンスマを使用することでスピンラザの投与が不要となる期間を計算し、その期間に使用されるスピンラザ11本分の費用(1億442万3264円)に有用性加算(I) (加算率50%)及び、先駆け審査指定加算(加算率10%)が加算され、1億6707万7222円が設定されました。

ちなみに米国では212万5000ドル(当時レートで約2億3200万円)の薬価が設定されており、これはスピンラザ(12万5000ドル)の投与を10年間続けた場合の費用の半額で算定されています。

 

【先駆け審査指定制度における問題】

ゾルゲンスマは先駆け審査指定制度の下、指定品目として承認と薬価算定が進められました。しかしながら、申請者であるノバルティスファーマ社がこの制度を実質的に活用せず、承認が大幅に遅れたこと、さらにそれにも関わらず薬価に先駆け審査指定加算(10%)が適用されたことが問題視されています。

先駆け審査指定制度は、革新的な医薬品・医療機器・体外診断用医薬品・再生医療等製品を日本で早期に実用化することを目的に2015年に制定された制度です。指定されると事前評価や優先的に承認審査を受けることができ、医薬品の場合、通常12ヶ月かかる審査期間が6ヶ月に短縮されます。さらに先駆け審査指定制度加算として、薬価に10%が加算されます。2020年6月までに、12品目の再生医療等製品が指定されており、そのうち、ゾルゲンスマとステミラックが承認を受けています。

ゾルゲンスマは、公募の結果2018年3月に先駆け審査指定品目に指定され、ノバルティスファーマ社は2018年11月に承認申請を行いました。先駆け審査指定制度により、当初は2019年前半での承認が見込まれましたが、ノバルティスファーマ社が「先駆け総合評価相談」を行わずに申請したことや、申請後のPMDAからの照会に対する回答に10ヶ月もかかったことから、申請から承認まで1年4ヶ月を要しました。

このように先駆け審査指定品目にも関わらず企業側の対応の問題で承認が遅れたこと、さらに先駆け審査指定制度の要件自体は満たしていたため、薬価に先駆け審査指定加算として10%が上乗せされたことが、大きく問題視されています。これについて、厚生労働省の鎌田光明医薬・生活衛生局長は、「十分な再発防止策が講じられるまでは、ノバルティスの品目を(先駆け品に)指定することは適切ではない」との厳しい見方を示しています(日刊薬業 2020年9月4日付)。厚生労働省内においても、「何らかの制度的見直しはやむを得ない」との声も出ていますが、さまざまな見解があり、明確な方向性は固まっていないようです(日刊薬業 2020年6月1日付)。

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