再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#70 セレイドセラピューティクス

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〇ポリビニルアルコール(PVA)を用いた造血幹細胞の大量培養技術の実用化を目指すスタートアップ企業

臍帯血由来造血幹細胞を用いた骨髄非破壊的処置 造血幹細胞移植の確立を目指す

〇経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)2023においてグランプリに選定

 

【会社情報】

会社名セレイドセラピューティクス株式会社
Celaid Therapeutics Inc.
所在地本社/ラボ:東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ
神戸オフィス:兵庫県神戸市中央区港島南町1-6-5 国際医療開発センター5階
代表者代表取締役社長CEO 荒川信行
設立2020年10月8日
上場非上場

 

【会社概要】

造血幹細胞の再生医療の開発・実用化を行うベンチャーです。東京大学医科学研究所の山崎聡 特任准教授(当時。現筑波大学教授,同社共同創業者,サイエンティフィックアドバイザー)が開発した、液体のりの成分でもあるポリビニルアルコール(PVA)を用いた造血幹細胞の大量培養技術の実用化を目的として設立されました。
京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)/1stラウンドや、国立がん研究センターのベンチャー企業支援プログラムNCC Venture IncubationProgramに採択されています。また経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)2023においてグランプリに選定されています。

 

【事業内容】

造血幹細胞の体外大量培養技術

①造血幹細胞とは

造血幹細胞は赤血球、白血球、血小板等の血球系の基になる幹細胞であり、主に骨髄中に、また末梢血や臍帯血中にも存在することが知られています。

造血幹細胞とは (出典:セレイドセラピューティクス株式会社ウェブサイトTechnology & Innovation)

白血病などの血液がんの治療として、大量の化学療法や全身への放射線照射により血液がん細胞を含む血球細胞を処置(骨髄破壊的処置)をした後に造血幹細胞を移植することで血球系を再構築させる造血幹細胞移植治療が行われます。この時の造血幹細胞は主に他者の骨髄から採取されますが、HLA型の一致率の低さ、採取時のドナーの負担やドナー不足などの課題があります。一方で臍帯血由来の造血幹細胞は、骨髄由来細胞に比べて免疫寛容性が高くHLA型が完全に一致していなくても移植できること、ドナーの負担がなく従来医療廃棄物として処分されていたものであることから入手が比較的容易という利点がありますが、臍帯血中に含まれる造血幹細胞の数が少ないため、移植のために十分な細胞数の確保が課題となります。そのため、造血幹細胞を大量に増殖させる技術が必要とされています。

 

②生体外大量培養技術

造血幹細胞を生体外で安定して大量かつ安価に増殖させる技術が、同社の基盤技術です。
造血幹細胞培養ではタンパク質を培地に加えることが必要ですが、従来使われていたウシ血清成分や精製アルブミンでは、ウシ血清成分に含まれる成分や、精製アルブミン中に微量に含まれる混入物が造血幹細胞の未分化維持を阻害し、またタンパク質の酸化反応がにより細胞老化が誘導されることで、造血幹細胞の安定的な増殖が妨げてられていました。そこで山崎准教授らはタンパク質を代替する物質の探索を行い、低分子化合物のポリビニルアルコール(PVA)がアルブミンと同様に造血幹細胞の増殖に有効であることを見出しました。さらにPVAは培地中で酸化反応を起こさないことから、造血幹細胞の老化を抑制したまま、安定して長期間増殖が維持されました。

造血幹細胞のPVA培養 (出典:『液体のりで造血幹細胞の増幅に成功―細胞治療のコスト削減や次世代幹細胞治療に期待―』AMED 2019年5月30日付プレスリリース)

 

③造血幹細胞移植への応用

セレイドセラピューティクス社ではこの技術を応用して造血幹細胞移植に用いる臍帯血由来造血幹細胞の開発を進めています。
さらにこの技術により大量の造血幹細胞を得ることで、患者の負担を大きく減らす治療法が期待されます。従来、移植した造血幹細胞をレシピエントの骨髄中に生着させるためには前述の骨髄破壊的処置が必要であると考えられていました。しかし近年、造血幹細胞を大量に移植することで、骨髄に破壊的処置を行わなくても造血幹細胞が生着することが、動物実験で示されています。
そこで、PVA培養で大量に増殖させた造血幹細胞を大量にマウスに移植したところ、骨髄の破壊処置なしに造血幹細胞が生着し、T細胞およびB細胞を作り出していることが分かりました。

骨髄非破壊処置マウスへの造血幹細胞移植 (出典:『液体のりで造血幹細胞の増幅に成功―細胞治療のコスト削減や次世代幹細胞治療に期待―』AMED 2019年5月30日付プレスリリース)

これまではこの治療法に必要な大量の造血幹細胞を採取することは現実的には不可能でしたが、PVA培養によって大量の造血幹細胞を得ることで、この移植方法が実現されることが期待されます。
PVA培養開発当時はマウスの造血幹細胞を用いた研究でしたが、2021年にはヒト造血幹細胞の増殖にも成功し、今後、「5、6年でまず患者さんに使える状態に持っていきたい」と、荒川代表取締役から語られています(「東大IPC 1stRound」採択企業起業家インタビュー 2021年6月24日)

 

④その他のターゲット疾患

ターゲット疾患への応用(出典:NCC Venture Incubation Program 会社紹介)

同社では造血幹細胞移植以外の治療法に向けた細胞の開発も進められており、その一つとして遺伝子治療への応用があります。これは、例えば鎌形赤血球症などの血球系の遺伝子疾患の患者より採取した造血幹細胞に遺伝子操作を行い、正常化させた後に大量に増幅させ移植することで遺伝子疾患を治療する方法です。

この治療法の基礎開発として、同社の共同創業者/サイエンティフィックアドバイザーの山崎聡 筑波大学教授のグループがマウスの造血幹細胞を用いた遺伝子導入/PVA培養の研究成果を発表しており、今後ヒト造血幹細胞を用いた次世代遺伝子治療の開発が期待されます。

 

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