再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#77 トレジェムバイオファーマ

投稿日:

〇抗USAG-1抗体による歯の再生治療の開発を行っているベンチャー企業

先天性無歯症を対象とした医師主導治験を2024年9月より開始

永久歯に替わる第3生歯の再生治療の開発も計画

【会社情報】

会社名トレジェムバイオファーマ株式会社
Toregem BioPharma Co., Ltd.
所在地京都市上京区河原町通今出川下る梶井町448-5
クリエイション・コア京都御車211号室
代表者代表取締役 喜早ほのか
設立2020年5月12日
上場非上場

【企業理念/ミッション】

【会社概要】

歯胚の成長を促すことによる歯の再生治療薬の開発を行っている京都大学発のベンチャー企業です。京都大学歯科口腔外科の高橋克 准教授(当時,現 同社取締役CTOおよび医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)らの研究成果である抗USAG-1抗体による永久歯の再生の実用化を目的に設立されました。現在、遺伝的な要因で歯が6本以上少ない先天性無歯症を対象とした開発が進められており、2024年9月から医師主導治験が計画されており、2030年頃の上市を目指しています。また将来的には虫歯や歯周病、加齢、外傷など後天的な永久歯欠損を対象にした開発も計画されています。

社名は歯の再生治療薬を意味する” Tooth Regeneration Medicine”の各語の頭文字に由来しています。

同社はForbes JAPAN誌の『次代を担う新星たち 2024年注目の日本発スタートアップ100選』に選出されています。

なお、本開発品は抗体医薬であり薬機法での分類上は再生医療等製品ではありませんが、組織の再生をコンセプトとした医薬品であることから、再生医療ベンチャーとして紹介します。

 

【事業内容】

先天性無歯症に対する歯の再生

先天性無歯症とは

通常ヒトでは乳幼児期に乳歯が生え、その後児童期に永久歯に生え替わります。この時、歯の元となる「歯胚」が歯槽骨の中で成長することで永久歯が形成され、乳歯を押しのけるようにして生え替わります。

歯が生え替わるまでのイメージ (出典:朝日新聞デジタル『子どもの歯はなぜ生え替わる? 20本から32本へ サイズも大きく』)

永久歯がすべて生えそろうと32本 (親知らず4本を含む)になりますが、歯の種類を問わず先天的に本数が1本でも欠損している疾患を先天性無歯症と呼びます。欠損している歯の本数や種類、場所などによって様々な原因が考えられますが、6本以上の歯が欠損している場合は遺伝的な要因が関係しており、原因遺伝子としてEDA, MSX1, WNT10A, RUNX2などが知られています。これらの遺伝子を欠損させた疾患モデルマウスでは永久歯の歯胚の成長が途中で止まることで歯が生えてこないことが分かっています。
6本以上の先天性無歯症患者数は国内で約6,000人とされています。現在の治療法としては義歯や歯科インプラントが行われていますが、義歯は顎の成長に合わせて作り変える必要があり、またインプラントは骨移植から始めまり約10年間の治療時間を要するなど非常に大変であり、歯の再生のような根治的治療法の開発が望まれています。

 

抗USAG-1抗体開発

トレジェムバイオファーマ社では、この先天性無歯症の治療薬として抗USAG-1抗体医薬の開発を進めています。

歯胚の成長には骨形成タンパクであるBMPが必要ですが、USAG-1はBMPを阻害する働きがあり、これにより歯胚の成長が抑制されています。USAG-1欠損マウスでは、通常は退化して消失する歯胚が退化せずに成長することで、通常より多くの歯が生える過剰歯となります。

USAG-1によるBMPの阻害およびUSAG-1欠損による過剰歯 (出典:「歯科医師が見つけた世界初の歯が生える薬の開発」)

そこで高橋 准教授らはUSAG-1を中和する抗USAG-1抗体を作製し、先天性無歯症モデルマウスであるEDA遺伝子欠損マウスに投与したところ、歯が再生し無歯症が回復することを発見しました。

トレジェムファーマバイオ社では動物意見で効果が見られた抗USAG-1抗体をヒト化し、リード抗体TRG-035として開発を進めています。サル用いた非臨床安全性試験も完了し、2024年9月から医師主導治験が計画されており、2030年頃の上市を目指しています。

先天性無歯症治験計画のポスター(出典:公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院ウェブサイト 歯の再生治療薬の治験計画について)

また同社は東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)との共同研究により、先天性無歯症の病因・病態解明を進めています。

 

第3生歯の再生治療

生後、最初に生える歯を第1生歯、生え替わり2番目に生える歯のことを第2生歯と呼びます。ヒトでは乳歯が第1生歯、永久歯が第2生歯にあたり、一方マウスでは生え替わりがないため永久歯が第1生歯となります。いずれにおいても哺乳類では永久歯を欠損した場合には歯は再生しませんが、歯槽骨内に歯胚は存在するものの成長することなく退化・消失することが知られています。

髙橋 准教授らは先天性無歯症モデルマウスで効果が見られた抗USAG-1抗体を遺伝子欠損のない野生型のマウスに投与した結果、第2生歯となる新しい歯が再生されることを見出しました。さらにヒトと同じく2生歯性の動物であるフェレットに同抗体を投与したところ、第3生歯の形成が確認されました。

このことから将来的には虫歯や歯周病、加齢、外傷など後天的に欠損した永久歯に替わる第3生歯の再生治療の開発も計画されています。歯胚は加齢とともに退化、消失するため、現段階ではヒトでは第3生歯の歯胚が何歳頃まで残っているかが不明などの課題はありますが、第3生歯の再生治療法が確立されれば歯科治療のゲームチェンジングとなる大きな社会的効果が期待されます。

第3生歯再生治療法(出典:大阪歯科保健医新聞2021年8月15日付)

 

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