再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#76 イーダーム

更新日:

〇脱毛症や皮膚疾患の治療開発を行う東京医科歯科大学発のベンチャー企業

〇毛包幹細胞/17型コラーゲンを標的とする候補化合物の開発

〇脱毛症を中心に複数のパイプライン開発が進行中

 

【会社情報】

会社名株式会社イーダーム
EADERM CO.,LTD
所在地東京都文京区湯島1-5-45 東京医科歯科大学2号館3階
代表者代表取締役社長 安藤 信裕
設立2017年11月15日
上場非上場

 

【企業理念/ミッション】

 

【会社概要】

脱毛症や皮膚疾患の治療開発を行う東京医科歯科大学発のベンチャー企業です。西村栄美 教授らの皮膚や毛包の組織幹細胞に関する研究成果を基に、毛包幹細胞を制御して脱毛を抑える候補化合物をスクリーニングにより同定し、女性型脱毛症をはじめとする脱毛症の治療薬の開発を進めています。

なお、本開発品は薬機法での分類上は再生医療等製品ではありませんが、組織幹細胞についての研究成果を基にした医薬品の開発であることから、再生医療ベンチャーとして紹介します。

 

【事業内容】

パイプライン

イーダームのパイプライン (出典:株式会社イーダームウェブサイト 研究開発)

イーダーム社では皮膚および毛髪疾患を対象とする治療開発を行っており、なかでも女性型脱毛症に注力して開発が進められています。

女性型脱毛症は男性型脱毛症(AGA)とは異なった症状を示します。男性型では前額部や頭頂部が局所的な脱毛が見られますが、女性型では全体的に均一に、もしくは頭頂部の比較的広い範囲の頭髪が薄くなることが多く見られます。また男性型が20代や30代から脱毛が始まるのに対し、女性型では更年期での発症が多く見られます。

AGAの毛周期 (出典:AGAメディカルケアクリニック ウェブサイト)

AGAは男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)の働きにより毛周期(ヘアサイクル)が乱れることで起こります。毛髪は毛母細胞が活発に分裂し毛髪を成長させる成長期、毛髪の成長が止まり抜け落ちるまでの期間である退行期、毛髪が抜け落ちて次の毛髪が成長を始めるまでの休止期を1サイクルとするヘアサイクルによって維持されています。この毛母細胞に栄養やシグナルを送る働きをするのが毛乳頭細胞です。

AGAのメカニズム
(出典:大正製薬製品情報サイト ヘアコンテンツ)

DHTは男性ホルモンであるテストステロンが5α還元酵素(5αリダクターゼ)により変換されることで生成される物質です。このDHTが毛乳頭細胞に発現する男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)に結合すると毛乳頭細胞からTGF-βが産生され、TGF-βが毛母細胞に作用すると毛母細胞の増殖が抑制され、毛髪が十分に成長しないまま退行期へと移行が起こります。その結果、成長する毛髪より抜ける毛髪の方が相対的に多くなることから脱毛症が生じます。5α還元酵素の内”II型5α還元酵素”は頭頂部や前頭部に多く発現しており、それらの部位でDHTも多く産生されヘアサイクルが乱されることで、頭頂部や前頭部で脱毛症が多く見られます。

一方で、女性では男性ホルモンの量が男性より少ないため、女性型脱毛症の原因としてはDHTの影響は少ないと考えられています。実際に日本皮膚科学会の『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017 年版』ではAGAの治療薬として5α還元酵素の阻害剤であるフィナステリドやデュタステリドが推奨されていますが、女性型脱毛症では効果が認められなかったこと、また妊娠中や授乳中の女性への投与は禁忌であることから、女性型脱毛症には「行うべきではない」とされています。
また、毛包(毛根)の活性化や血流改善作用により発毛を促進させるとされているミノキシジルの使用が同ガイドラインでは推奨されていますが、臨床試験の結果では女性型脱毛症ではAGAと比較して発毛効果は低く、また有害事象も考慮され、推奨使用濃度がAGAでは5%に対して女性型脱毛症では1%と低く設定されています。

これらのことから、イーダーム社では女性型脱毛症に対するより効果的な治療薬の開発に取り組んでいます。

 

毛包幹細胞とCLL17A1

毛包と毛包幹細胞
(出典:日本メナード株式会社ウェブサイト 研究・商品開発)

毛髪の根元に位置し毛髪を産み出している組織が毛包です。イーダーム社は、毛包内に存在する「毛包幹細胞」を標的とした治療法の開発に取り組んでいます。

毛包幹細胞は毛包内のバルジと呼ばれる領域に存在しています。毛包幹細胞はバルジ内で自己複製し、その一部が毛包の底部に移動し毛母細胞へ分化することで新たな毛髪が生成されます。

加齢による毛包幹細胞の老化と毛包のミニチュア化
(出典:東京医科歯科大学 2016年2月5日 プレスリリース)

同社の共同創業者でありサイエンティフィックアドバイザーである西村栄美 教授らは、毛包幹細胞の自己複製には17型コラーゲン(COL17A1)と呼ばれるタンパクの存在が必須であり、加齢によりCOL17A1が分解・消失することで毛包幹細胞が維持できず脱毛が起こることを発見しました。

 

開発候補化合物

西村教授らはCOL17A1の発現維持や毛包幹細胞の未分化状態の維持を標的とした化合物・天然物のハイスループットスクリーニングを行い、いくつかの候補物質を同定しました。
そのうちの1つの低分子化合物について、加齢モデルマウスや脱毛症モデルマウスを用いた動物実験において、皮膚に塗布することで脱毛の進行の抑制や改善が見られました。このメカニズムはAGAとは異なるため、AGA治療薬で効果が見られなかった女性型脱毛症の治療薬としても期待されます。

 

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