再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#52 Jiksak Bioengineering

更新日:

2024/10/14 改訂

〇独自の”Nerve Organoid™”(人工神経組織)作製技術を基に神経難病や末梢神経損傷・断裂に対する診断/治療法の開発を行うベンチャー

〇シナプスや神経接合部を対象とした独自技術による神経難病に対する研究ツールやDDSの開発

〇神経筋接合部に注目した創薬事業も展開

 

【会社概要】

会社名 株式会社Jiksak Bioengineering
Jiksak Bioengineering Inc.
所在地 神奈川県川崎市川崎区殿町3丁目25番16号
CYBERNICS MEDICAL INNOVATION BASE-A 322室
代表者 代表取締役 川田 治良
設立 2017年2月7日
上場 非上場

【会社概要】

神経組織の「軸索」を生体外で再現した”Nerve Organoid™”(人工神経組織)作製技術を基に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を始めとする神経難病や末梢神経損傷・断裂に対する新しい診断/治療法の開発を行う東京大学発のバイオベンチャーです。
独自の「人工シナプス形成技術」によるシナプス異常疾患に対する創薬研究ツールの開発、神経接合部(Neuromuscular Junction; NMJ)の運動ニューロンを特異的に認識する分子を用いた「Drug Linked Carrier (DLC)技術」の開発や、損傷神経の治療を目的とした「軸索集積型人工神経」の開発などを進めています。

 

【企業理念/ミッション】

 

【事業内容】

コア技術① ”Nerve Organoid™”

マイクロ流路チップ(左) (出典:TechCrunch)とNerve Organoid (右) (出典:せりか基金通信)

Jiksak社のコア技術は、人工神経組織”Nerve Organoid”です。神経組織は、細胞体の凝集部と軸索束から構成されていますが、これまでの培養技術では細胞体凝集部と軸索束を明確に分けることができず、生体内での神経組織を体外培養で再現することができませんでした。

Jiksak社のNerve organoidは、iPS細胞由来神経細胞スフェロイドをマイクロ流路チップ上で培養することで、細胞体と軸索が明確に分かれた状態で培養することができ、これにより軸索の状態を正確に観察・評価することが可能となりました。

マイクロ流路中で軸索ができる様子(出典:Kawada et al. Stem Cell Reports 9:1441-1449 (2017))

同社はこのNerve Organoid™を応用した薬剤スクリーニング評価系や末梢神経損傷・断裂に対する新規医療機器の開発を行っています。

Nerve Organoid™を応用した研究例として、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の秋山徹也 助教,青木正志 教授らのグループは筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)患者由来iPS細胞から作製した運動ニューロンと、Jiksak社のNerve Organoid™技術を組み合わせることで、ALS患者の運動ニューロンでは軸索の形態が異常となることを発見しました。さらに、軸索部分のみを採取し分析することで、その形態異常にFos-B遺伝子が関連していることを見出し、この遺伝子がALS治療のターゲットとなることが期待されています。

ALS患者運動ニューロンの軸索形態異常 (出典:東北大学 2019年7月2日プレスリリース)

また同社ではNerve organoid™を作製するための培養デバイスとして、目的に合わせた複数種の培養チップの販売を行っています。

Nerve Organoid™ 培養チップ (出典:株式会社Jiksak BioengineeringウェブサイトNerve Organoid™より改変)

 

コア技術② 人工シナプス形成技術

同社では神経の軸索とシナプスについての研究開発を進めています。

同社の湯本法弘 取締役/co-CEOは、NMJの形成および維持に重要なタンパクを発見しました(Yumoto et al. Nature 489:438-442 (2012))。同タンパクは筋肉に存在する膜型タンパクで、運動神経に働きかけることでNMJの形成を誘導する働きがあります。同社ではこのタンパクを結合させたマイクロビーズとヒトiPS細胞由来運動神経細胞を共培養することで軸索末端とビーズの間にシナプスが人工的に形成されることを見出しました。この人工シナプス形成技術を研究ツールとして応用し、ヒトiPS、ALSや重症筋無力症といったシナプス異常疾患に対する創薬研究ツールの提供を行っています。

2024年9月に帝人ファーマ株式会社と提携し、同技術を用いた神経難病に対する新規創薬標的遺伝子の同定の共同研究が進められています。

 

神経筋疾患の診断/治療開発

私たちが体を動かすときには、脳からの電気的信号が運動ニューロンを通って筋肉へ伝わることで思い通りに体を動かすことができます。この運動ニューロンから筋肉へ電気信号を伝える構造のことを神経筋接合部(Neuromuscular Junction; NMJ)と呼び、NJMが乖離することで様々な神経筋疾患を生じます。
同社ではNMJに対する新たな治療法の開発を進めています。

NMJに対する治療戦略 (出典:株式会社Jiksak Bioengineeringウェブサイト 創薬事業)

同社では、NMJの運動ニューロンを特異的に認識する分子(開発名:JB-00)を得ています。このJB-00を利用したDrug Linked Careeier (DLC)技術の開発が進められています。

2023年8月にALSを含む神経難病の治療薬開発に取り組んでいるモルミル株式会社と提携し、DLC技術を応用したALSの治療法の開発を進めています。

 

軸索集積型人工神経

Jiksak社では、ALSの治療薬の開発も進められ

同社ではNerve Organoid ™技術を応用し、末梢神経損傷・断裂に対する新しい治療法として「軸索集積型人工神経」の開発を進めています。

事故や病気により末梢神経が損傷・断裂した場合、損傷が小さい場合は神経どうしの縫合が行われますが、損傷が大きい場合は自身の健康な神経の一部を欠損部位に移植する自家神経移植が行われます。しかしながら、自家神経移植では採取元の部位の近くが損なわれ、また採取できる神経の長さに限界があることや、患者の体への負担が大きいことが課題となっています。一方で、神経どうしを人工チューブでつなぎ神経の再生を促す神経再生誘導チューブ移植も行われていますが、機能回復が遅く効果も限定的となっています。

 そこで同社では新たな移植デバイスとして、Nerve Organoid™から細胞核が存在する細胞体を離断しチューブ内に軸索束のみを集積させた「軸索集積型人工神経」の開発を進めています。このデバイスを神経損傷部位に移植することで末梢神経再生を促し、感覚神経と運動神経の機能回復の促進が期待されます。

軸索集積型人工神経 (出典:株式会社Jiksak Bioengineeringウェブサイト iPS細胞を用いた医療機器)

 

 

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