再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#42 IDファーマ

更新日:

〇センダイウイルス(SeV)ベクターによる、高効率かつ安全性の高い遺伝子導入技術が基盤技術

〇SeVベクターiPS細胞作製キット『CytoTune®-iPS』を開発・製造・販売

〇多くの社外機関と、虚血肢や網膜色素変性症などの遺伝子治療の研究開発を進行中

会社名 株式会社IDファーマ
ID Pharma Co., Ltd.
所在地 本社:東京都千代田区富士見2-10-2 飯田橋グラン・ブルーム
研究開発センター:茨城県つくば市大久保6番
代表者 代表取締役社長 森 豊隆
設立 2003年9月5日
(2015年4月にディナベック株式会社から社名変更)
上場 非上場

【会社概要】

センダイウイルス(SeV)ベクターによる、高効率かつ安全性の高い遺伝子導入技術を基盤とし、iPS細胞作製キットの開発・製造・販売や遺伝子治療の開発等を行っています。遺伝子治療の開発は社外機関と共同で進めており、虚血肢(慢性閉塞性動脈硬化症)を対象としたFGF2-SeVベクター遺伝子治療剤や、網膜色素変性症を対象としたPEDF-SIVベクター遺伝子治療剤について、臨床試験が進められています。そのほか、細胞加工やベクター製造等の受託を始めとする各サービス事業も行っています。

センダイウイルスの実用化を目的として2003年に設立されたディナベック株式会社を前身としており、2013年にディナベック社が株式会社アイロムホールディングス(現アイロムグループ)に経営統合された後、2015年に株式会社IDファーマへと社名変更し、同グループの先端医療事業を担っています。

【事業内容】

コア技術:センダイウイルスベクター

センダイウイルス(SeV)は、マウスやラットを宿主とする呼吸器病ウイルスで、1953年に仙台市で初めて発見されたことが名前の由来となっています。RNAウイルスであり、感染後は宿主のゲノムに入り込むことなく細胞質で増殖するという特徴があります。SeVベクターはSeVを元に開発されたRNAウイルスベクターで、以下の特徴を持つ、効率的で安全の高いベクターです。

1. ヒトを含む多くの哺乳類や鳥類の細胞で、細胞周期によらず導入可能

2. ゲノムに組み込まれないため、ゲノム傷害が起こらない

3. 細胞質内で遺伝子が複製されるため、細胞質内での目的タンパクの発現量が多い

4. ウイルスベクター自身には細胞傷害性がない一方で、感染細胞は抗原性を示すため、生体内に残留せず速やかに排除される

SeVベクターは、1995年に厚生省(当時)および日本の主要製薬会社7社の出資による官民共同の国家プロジェクトとして、開発が行われました。この成果の事業化を目的として、IDファーマ社の前身のディナベック株式会社が設立されました。

IDファーマでは、SeVベクターを利用してiPS細胞作製キット開発・製造・販売、および遺伝子治療製剤の開発を行っています。

iPS細胞作製キット 『CytoTune®-iPS』

SeVベクター技術によるiPS細胞作製キットCytoTune®-iPS (研究用・臨床用)を製造・販売しています。SeVベクターにOCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYCの4遺伝子(臨床用では、c-Mycの代わりにL-Mycを使用)を搭載したもので、現在はより効率を高めたver 2.0、さらに、導入後のベクター消失効率の高いCytoTuneEX™-iPSが販売されています。

iPS 細胞作製キット CytoTune®-iPS
(出典: CytoTune™-iPS 2.0 Sendai Reprogramming Kit (Thermo Fisher Scientific)およびiPS 細胞作製キット CytoTune®-iPS(ナカライテスク))

この方法で作製したiPS細胞の使用について、これまでに以下の国内外の企業・機関とライセンス契約を締結しています。

国名 企業名
日本 株式会社ケイ・エー・シー
日本 タカラバイオ株式会社
日本 サイアス株式会社
アメリカ Minerva Biotechnologies Corp.
アメリカ Mayo Clinic
アメリカ Q-State Biosciences, Inc.
アメリカ QurAlis Corp.
イギリス Newcells Biotech Ltd.
イギリス Axol Bioscience Ltd.
イギリス Elpis Biomed Ltd.
イギリス Censo Biotechnologies Ltd.
ドイツ Evotec International GmbH
中国 盛世荣恩生物科技公司
メガファーマ(企業名非公表)

SeVベクター遺伝子治療剤

①虚血肢治療剤 DVC1-0101

血管新生因子であるFGF-2を搭載したSeV遺伝子治療剤です。九州大学病院において、慢性重症虚血肢(閉塞性動脈硬化症,バージャー病)を対象とした第I/IIa相臨床試験が実施され、重篤な有害事象が見られないこと、および「歩行距離」を含む複数の有効性評価指標で改善が見られています。

現在、九州大学病院および松山赤十字病院において第IIb相臨床試験が進められています。

海外においては、オーストラリアで間欠性跛行肢または重症虚血肢を対象とした第I/IIa相臨床試験が行われています。また、本治療剤は、深圳信立泰药业股份有限公司/Shenzhen salubris pharmaceuticals Limited (中国)に導出されており、中国において第I相臨床試験が進められています。

②難聴治療製剤 IDPS001

防衛医科大学耳鼻咽喉科学講座と共同で、突発性難聴に対する治療薬の開発を進めています。突発性難聴は原因不明の聴覚異常疾患ですが、内耳の感音組織である蝸牛に治療遺伝子を導入することで難聴が回復することが分かっています。

現在、治療遺伝子を搭載したSeVベクター治療剤の前臨床試験が進められています。

③新規悪性腫瘍治療剤 BioKnife®

SeVベクターを改良した腫瘍特異的浸潤型SeVベクターです。

BioKnife®では、SeVベクターからウイルス粒子形成に関わるM遺伝子が取り除かれており、感染後の細胞においてはウイルス粒子が形成されず、エンベロープタンパクが細胞膜上に蓄積されます。BioKnife®のエンベロープタンパクは、ほぼすべての腫瘍細胞で過剰発現が見られるuPAというプロテアーゼにより活性化されるように設計されており、活性化された結果膜融合活性を有するようになり、隣接する細胞と膜融合を起こした結果、細胞死を生じます。

九州大学医学部との共同研究では、悪性中皮腫(アスベストにより引き起こされる難治性腫瘍)のモデルマウスを用いた動物試験において、BioKnife®が腫瘍特異的に活性化され、生存期間が延長されることが確認されています。 また、千葉大学医学部との共同研究においては、BioKnife®にさらにインターフェロンを搭載したBioKnife®-bを作製し、グリオーマ移植ラットを用いた動物試験において、顕著な有効性が見られています。

④HIVワクチン

International AIDS Vaccine Initiative (IAVI)および国立感染症研究所と共同で、HIVウイルスに対するワクチンの開発を行っています。これは、HIV抗原を搭載したSeVベクターをワクチンとして、細胞傷害性T細胞を活性化させる方法で、アフリカで第I/IIa相臨床試験を行い、安全性と有効性が確認されています。

現在、国立感染症研究所と共同で、より効果的なワクチンおよび抗体産生細胞を活性化させるワクチンの開発が進められています。

⑤HTLVワクチン

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)等の深刻な症状を引き起こすウイルスです。現在、国立感染症研究所と共同で、HTLV-1に対するワクチンの開発が進められています。

⑥心筋誘導SeVベクター

慶應義塾大学医学部と共同で、線維芽細胞から効率よく短期間で直接心筋細胞を誘導するSeVベクターを開発しています。

(出典:慶應義塾大学 2017年12月22日 プレスリリース)

慶應義塾大学の家田講師らはこれまでに、Gata4, Mef2c, Tbx5の3つの遺伝子を線維芽細胞に導入することで、直接心筋細胞を誘導できることを見出し、心筋梗塞により線維化したマウス心臓において、心臓線維芽細胞を心筋細胞に転換できることを報告していました。しかしながら、当時用いていたレトロウイルスベクターでは、誘導効率が低い、導入細胞のゲノム損傷の危険性といった課題がありました。

そこで、ベクターとしてSeVベクターを用いることで、より効率的かつ安全性の高いベクターを開発することに成功しています。

 

このほかに、以下の企業とSeVベクターの使用に関するライセンス契約を締結しています。

国名 企業名
アメリカ Elixirgen Therapeutics, Inc
中国 中国江蘇瑞科生物技術有限公司

その他ウイルスベクター遺伝子治療剤

網膜色素変性症/サル免疫不全ウイルス(SIV)ベクター DVC1-0401

網膜色素変性症は、遺伝子の異常によって光を感じる細胞(視細胞)が脱落し、夜盲,視野狭窄,視力低下,失明が起こる難病です。約5,000人に1人の割合で発症し、日本での失明原因の2位となっています。原因遺伝子は50以上に及ぶとされ、現時点では有効な治療法はありません。

網膜色素変性症を対象として、九州大学医学部眼科と共同でヒト色素上皮由来因子(hPEDF)による網膜色素変性症の遺伝子治療の開発を進めています。PEDFは神経栄養因子であり、アポトーシスの抑制による神経細胞保護作用があります。

(出典:九州大学医学部眼科 ウェブサイト)

この治療法においては、長期間の安定したhPEDFの産生が必要とされるため、SeVベクターではなく、SIVベクターが使用されています。このベクターを用いた遺伝子導入においては、目的遺伝子がゲノム中に挿入されることで、長期的に発現します。

現在、九州大学病院において、医師主導第I/IIa相臨床試験が進められています。

iPS細胞からの褐色脂肪細胞誘導

国立国際医療研究センターと共同で、iPS細胞由来褐色脂肪細胞の開発を行っています。

(出典:Nishio et al. Cell Metabolism16(3):394-406 (2012))

褐色脂肪細胞は、脂肪を分解・燃焼に関わっていることが知られています。iPS細胞をサイトカイン添加下で培養することで、機能的な褐色脂肪細胞を誘導する技術を確立しており、現在、肥満やメタボリックシンドローム等を対象とした細胞治療の開発や、褐色脂肪細胞の活性化剤のスクリーニング等の研究開発が進められています。

受託サービス

IDファーマ社は、GMPに準拠したベクター製造施設およびCPC(特定細胞加工物製造許可 施設番号:FA3160007)を有しており、SeVベクター,SIVベクター,AAVベクター等のベクター製造受託サービス、およびiPS細胞作製,細胞加工等の受託サービスを提供しています。

ICR 附属クリニカルリサーチ東京病院より、免疫細胞治療に用いる樹状細胞の培養の受託や、Innovacell Biotechnologie AG社(オーストラリア)より、括約筋劣化由来便失禁および平滑筋劣化由来便失禁を対象疾患とした、臨床試験用の細胞治療製剤の製造を受託しています。

さらに、2020年4月に再生医療等製品製造業許可を取得しています。虚血肢治療剤(DVC1-0101)等の開発中の遺伝子治療製剤や再生医療等製品が上市した際の製造体制となるとともに、製造販売承認取得後の受託製造も含めた受託事業も可能となります。

治験国内管理人

海外の製薬企業を対象に、日本における治験に関わる手続きおよび業務の代行サービスを行っています。

現在、DiscGenics社(アメリカ)が開発中の、腰椎椎間板変性症を対象とした細胞治療製品IDCT-001の日本国内における治験国内管理人を務めています。

 

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