〇iPS細胞を用いた腎臓再生医療の開発を行う企業
〇東京慈恵会医科大学の横手教授らが開発した、胎生臓器ニッチ法およびクロアカ移植法の実用化を目指す
〇同社と、東京慈恵会医科大学,明治大学,株式会社ポル・メド・テック,大日本住友製薬株式会社の5者による共同研究・開発が進められている
会社名 | バイオス株式会社 |
所在地 | 東京都台東区東上野2丁目7番5号 偕楽ビル6階 |
代表者 | 代表取締役 林明男 |
設立 | 2015年10月21日 |
上場 | 非上場 |
【会社概要】
iPS細胞を用いた腎臓再生医療の実用化に向けた研究開発を行っているバイオベンチャーです。東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科学の横尾隆 教授らの研究成果である、「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の実用化を目的に設立されました。アカデミアとの共同研究として、ヒト腎臓再生医療技術の横尾教授、異種間移植ドナーモデル作成技術の長嶋比呂志教授(明治大学)、マイクロサージャリー技術の小林英司教授(慶應義塾大学)、動物再生医療の米澤智洋准教授(東京大学)によるチームを結成し、開発をすすめています。
また、2019年4月より、同社と、東京慈恵会医科大学,明治大学,株式会社ポル・メド・テック,大日本住友製薬株式会社の5者による共同研究・開発が進められています。
同社の林明男 代表取締役は、骨髄由来細胞による歯槽骨再生療法や、肌の再生療法を行うバイオベンチャーである株式会社TESホールディングスの代表取締役でもあり、TESホールディングスの経営陣が中心となって、バイオス社の経営を行っています。
【事業内容】
「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生
① 「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生
腎臓では、上図のネフロンとよばれる組織で血液のろ過が行われ、腎臓はこのネフロン約100万個から構成されています。これまでに、iPS細胞からネフロンの元となるネフロン前駆細胞の分化誘導は報告されていましたが、このような複雑な組織構造を大量に作製することはできていませんでした。
また、ネフロンのみでなく、尿を排泄物として膀胱に輸送する尿管を同時に構築することも重要で、これら2点が腎臓の再生医療を困難なものとしていました。
②「胎生臓器ニッチ法」
横尾教授らは、「胎生臓器ニッチ法」と呼ばれる方法により、iPS細胞由来のネフロン前駆細胞から機能的な腎原基を誘導することに成功しています。「胎生臓器ニッチ法」とは、発生段階にある胎仔中の『特定の臓器が発生する場所(臓器ニッチ)』を分化誘導に利用する方法で、目的とする臓器の前駆細胞を臓器ニッチに注入し発生を進めることで、目的の臓器を誘導・作製することができます。
横尾教授らは、ラットのネフロン前駆細胞をマウス胎児の臓器ニッチに移植することで、異種間においても臓器ニッチ法が可能であることを報告しています(Yamanaka et al. Nature Commun 8:1719 (2017))
。ラットのネフロン前駆細胞を移植した場合、マウス胎児の腎臓中では、移植されたラットの細胞と元々のマウスの細胞が混合した腎臓(キメラ腎臓)ができることになります。そこで横尾教授らは、薬剤の存在下でネフロン前駆細胞のみが死滅する遺伝子改変マウス(Six2-iDTRマウス)を用いることで、移植したラット細胞のみからなるネフロンを作製することに成功しています。
ヒト腎臓再生医療への応用を考えた場合、ヒトの腎臓を同程度のサイズの腎臓を誘導する必要があります。そこで、臓器サイズがヒトに近いブタを用いた胎生臓器ニッチ法の開発が、明治大学の長嶋教授およびポル・メド・テック社と共同で進められており、現在、ネフロン前駆細胞を除去できる遺伝子改変ブタの開発が行われています。
③再生腎臓の尿排泄路の構築
横尾教授らのこれまでの研究により、腎原基のみの移植では尿がうまく排泄されず腎臓内に蓄積し、水腎症を起こすことが分かっていました。そこで、横尾教授らは、腎原基に加えて尿管および膀胱も同時に移植するクロアカ移植法を開発しています。クロアカ(Cloaca)とは総排泄口のことで、膀胱付腎原基を移植し、その膀胱とレシピエントの尿管をつなぐことで、再生腎臓が産生する尿をクロアカ膀胱を経由して持続的に排泄させることに成功しています。
腎臓の再生医療実現に向けた取り組み
これらの成果をもとに、2019年4月より、バイオス社と、東京慈恵会医科大学,明治大学,株式会社ポル・メド・テック,大日本住友製薬株式会社の5者による共同研究・開発が進められています。
「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の臨床応用に向けた基礎研究を東京慈恵会医科大学,バイオス社,および大日本住友製薬社が担当し、ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタの開発を明治大学,ポル・メド・テック社,および大日本住友製薬社で進めます。また、膀胱付き腎原基移植技術の開発が、慶応義塾大学の小林英司教授の協力のもと進められています。