〇NKT細胞を利用した抗がん治療の開発を行うベンチャー企業
〇理化学研究所と共同で、生体内NKT細胞を高効率で活性化させる抗原提示細胞製剤を開発
〇理化学研究所、慶応義塾大学病院と共同で、第I相医師主導治験が進行中
会社名 | 株式会社アンビシオン |
所在地 | 東京都新宿区左門町2-6 ワコービル5階 |
代表者 | 代表取締役 斉藤欣幸 |
設立 | 2015年10月 |
上場 | 非上場 |
【会社概要】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞を利用した抗がん治療の開発を行うベンチャーで、生体内NKT細胞を活性化させる抗原提示細胞製剤の開発を行っています。谷口克 理化学研究所ディレクターが開発した、NKT細胞リガンド提示細胞によるNKT細胞の活性化技術を基とした抗がん治療法の開発が進められ、理化学研究所、慶応義塾大学病院と共同で、第I相医師主導治験が進行中です。 社名のアンビシオン(AMBICION)はスペイン語で「大志」の意味で、『NKT細胞標的がん免疫療法を世に普及させ、がんで苦しむ方のために、がん治療の未来を変えていけるように社員全員が大志を持って取り組むことを誓う』意味が込められています(アンビシオン社 ウェブサイト代表挨拶より)。
【事業内容】
NKT細胞標的がん免疫療法
①NKT細胞
ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞に続く第4のリンパ球と呼ばれる細胞で、谷口克 千葉大学医学部教授(現・理化学研究所免疫制御戦略研究グループディレクター)によって発見されました。T細胞抗原受容体(TCR)とNK細胞マーカーの両方を発現していることから、NKT細胞と命名されています。
NKT細胞は通常末梢血中には少なく、肝臓、骨髄、肺といった組織に多く存在しており、炎症や病変が生じた際に炎症/病変部位に集積します。NKT細胞は、樹状細胞からの抗原提示を受け活性化することで、病原体等の異物を直接攻撃するエフェクター機能も示しますが、細胞数自体が少ないためその効果は限定的です。一方で、インターフェロンγ等を放出することでNK細胞やキラーT細胞を活性化するアジュバント機能も有しており、こちらが免疫反応におけるNKT細胞の主要な働きと考えられています。このように、NKT細胞は多くの活性化免疫細胞を産み出すことから、発見者の谷口教授はNKT細胞を「女王バチ」に例えています。
②NKT細胞の活性化
T細胞は、細胞ごとに異なる”T細胞抗原受容体(TCR)”を発現しており、それにより様々な抗原に対する免疫作用を示すことができます。一方で、NKT細胞は1種類の抗原受容体しか持たず、さらに認識する抗原提示分子もすべての人で共通のCD1d分子となっています。したがって、NKT細胞リガンドを提示した抗原提示細胞が1種類あれば、すべてのNKT細胞を活性化させることが可能です。
谷口教授らは千葉大学在籍時に、そのようなNKT細胞としてリガンド分子として海綿の一種であるAgelas mauritianusから抽出された「αGalCer」(アルファ・ガラクトシルセラミド)を発見し、αGalCerを取り込ませた樹状細胞がNKT細胞を活性化させることができることを突き止めました。
③NKT細胞活性化によるがん免疫療法
通常、体内で発生したがん細胞は免疫システムにより排除されます。しかしながら、進行したがん組織においては、がん細胞による免疫のブレーキ(免疫チェックポイント)や免疫抑制細胞の誘導などにより免疫不全の環境となっており、NK細胞やキラーT細胞によるがん細胞への攻撃は抑制されています。
このようながんに対して、がん細胞を認識し攻撃するT細胞を生体外で増殖させ投与するがん免疫治療法が行われ、一定の治療効果が見られていますが、投与したT細胞の寿命が約48時間と短いことや、体内で変異を起こしたがん細胞は認識できない等のことから、がん細胞を完全に死滅させることが難しいといった問題があります。
そこで谷口教授らは、上述のαGalCer-樹状細胞を投与することで生体内でNKT細胞を人工的に活性化させ、T細胞やNK細胞,マクロファージの増殖・活性化を誘導し、がん細胞を攻撃する治療法を開発しました。この治療法では、いわゆる「女王バチ」を活性化させることで、効率的に多くの「働きバチ」を生み出すことができ、またNKT細胞が免疫チェックポイントに関わる免疫細胞を障害することで、より効果的にがん細胞を攻撃することができます。変異を起こしたがん細胞に対しても、それを認識するT細胞を新たに活性化させることで攻撃することができます。さらに、NKT細胞は長期免疫に関わるメモリーT細胞に作用し、がん細胞に対する免疫反応を長期間維持できるといった利点もあります。
このαGalCer-樹状細胞を用いた臨床試験が千葉大学で実施され、その結果、生存期間の有意な延長が認められており、頭頸部扁平上皮がんおよび非小細胞肺がんを対象に先進医療Bとして認可されています(番号8および番号22)。
谷口教授は、千葉大学から理化学研究所に所属を移した後もNKT細胞に関する研究を続け、化学合成した172種類のαGalCer誘導体の中から、αGalCerと比較して数倍~数十倍協力にNKT細胞を活性化できる新規リガンド「RK-163」を発見しました。さらに、アンビシオン社と理化学研究所との共同研究において、樹状細胞に代わる新たな糖脂質抗原専門の抗原提示細胞を発見されました。これらの新規リガンドと新規抗原提示細胞を用いることで、これまで10日間かかっていた抗原提示細胞の培養を2日間に短縮することに成功しています。
アンビシオン社は理化学研究所と独占的実施許諾契約を締結しており、NKT細胞を標的とするがん治療剤の製造に用いる上記新規リガンド、およびNKT細胞の活性化技術に関する全世界の開発、商業化に関する権利を取得しています。
開発状況
①自家RKリガンドパルス抗原提示細胞
現在、自家RKリガンドパルス抗原提示細胞を用いた、進行・再発固形がん患者を対象とした第I相臨床試験が理化学研究所,慶應義塾大学病院と共同で進められています。この臨床試験では、患者自身から採取した抗原提示細胞を活性化したのち、3週もしくは4週間隔で2回、点滴により静脈投与し、移植57日目における用量制限毒性(これ以上増量ができない理由となる毒性)の発現する割合を主要評価項目、安全性および有効性を副次評価項目として行われています。2021年3月に終了予定となっています。また、治験と同時にスタートする付随臨床研究で観察する項目で有効性が示された場合には、再生医療等製品として条件および期限付き承認の取得も目指しています。
②他家RKリガンドパルス抗原提示細胞
並行して他家RKリガンドパルス抗原提示細胞の開発も行われており、現在、基礎研究と非臨床試験が進められています。他家細胞を用いた細胞製剤では、免疫過剰反応による副作用が起こる可能性があります。そこで、他家細胞の免疫原性を減弱するための基礎研究に取り組んでおり、2-3年後の臨床試験開始を目指して開発が進められています。