〇iPS細胞由来心筋細胞を用いた重症心不全治療の実用化を目指すバイオベンチャー
〇心筋細胞からなる微小組織・”心筋球”を移植
〇iPS作製,心筋分化誘導,大量培養,純化精製といった周辺技術も開発
会社名 | Heartseed株式会社 Heartseed Inc. |
所在地 | 東京都新宿区大京町12-9 アートコンプレックス・センター302 |
代表者 | 代表取締役CEO 福田恵一 |
設立 | 2015年11月30日 |
上場 | 非上場 |
【会社概要】
iPS細胞由来心筋細胞による重症心不全治療を目指す、慶応義塾大学発のベンチャーです。同大学医学部循環器内科の福田恵一教授により設立されました。心不全に対する治療として、心筋シートではなく「心筋球」と呼ばれる微小組織を移植する治療法の実用化を目指しています。この心筋球がフウセンカズラ(英名:Heartsheed)という植物の種に似ていることと、”心臓の種”を移植する治療法という意味が社名の由来となっています。
2021年6月に、ノボ ノルディスク社(デンマーク)と最大5億9800万ドル(約650億円)の独占的技術提携・ライセンス契約を締結しています。
【事業内容】
主要パイプライン: HS-001
拡張型心筋症,陳旧性心筋梗塞,拡張相肥大型などの収縮不全による心不全を対象とした、iPS細胞由来心筋球移植治療法です。本移植治療法では、1,000個程度の心筋細胞からなる”心筋球”と呼ばれる微小組織を作製して、移植します。
心不全に対する治療として心筋シート移植が行われていますが、心筋と移植心筋シートの間に心外膜と脂肪層があるため電気的な結合がなされず、収縮が同期しない可能性や長期生着ができない可能性といった問題点があります。一方で、心筋細胞移植では生着した移植細胞と心筋が電気的に結合するものの、生着効率が低いことが問題となっています。
そこで同社の創業者である慶應義塾大学の福田教授らは、iPS細胞由来心筋細胞から心筋球を作製し移植する方法を開発し、動物試験の結果、心臓組織に効率的に生着して心機能を改善することを確認しています。
拡張型心筋症を対象とする医師主導臨床試験が、2019年度内に計画されています。
独自技術
Heartsed社では心筋球移植治療の実用化に向けて、心筋球作製技術以外に以下の独自技術を開発しています。
①iPS細胞作製技術
iPS細胞作成時に特殊なベクターを用いることで、リプログラミングのための遺伝子をゲノムに直接挿入することなくiPS細胞を作製できる技術を開発しています。この方法ではゲノムを変化させることがないため、iPS由来細胞のがん細胞化の危険性を著しく低下させることができます。
また、リプログラミング遺伝子と同時に、卵母細胞特異的遺伝子であるH1fooを導入することで、胚様体やキメラ形成効率の高い高品質iPS細胞も開発しています。
②心筋細胞分化誘導技術
心臓発生に関与するBMP/ActivinシグナルやWntシグナル関連タンパクを用いることで、iPS細胞から効率よく心筋細胞を誘導する方法を開発しています。また、これらのタンパクを低分子化合物で代替する研究開発も進んでいます。
③2次元大量培養技術
多層培養プレートを用いた2次元大量培養系を確立しています。3次元培養では、細胞集塊中の未分化細胞の除去が困難であることや、増殖効率の低下、分化効率の不安定が問題点としてありましたが、2次元培養系で大量培養する系を確立することでこれらの問題を解決しています。
④心筋細胞純化精製技術
ES/iPS細胞を用いた治療法の問題点の一つとして、未分化細胞の残留による腫瘍化の危険性があり、目的の分化細胞の純化精製方法が課題となっています。福田教授らは、iPS細胞がグルコースとグルタミンを主なエネルギー源とするのに対し、心筋細胞はそれに加え乳酸をエネルギー源として代謝できることに着目し、乳酸を含みグルコースとグルタミンを含まない培養培地を用いることで、心筋細胞のみを選択的に生存させる培養方法を確立しており、Heartseed社も同方法によりiPS細胞由来心筋細胞の純化精製を行います。