再生医療ベンチャー

再生医療ベンチャー#64 リンドファーマ

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〇注射もしくは経口投与することで、生体内で再生を促す”体内再生因子誘導剤治療”の開発を行うバイオベンチャー

〇生分解性高分子に内包した徐放性YS-1402と、経口用に改良された経口剤YS-1704が主な開発パイプライン-

〇虚血性心筋症を対象とした医師主導治験が進行中

 

【会社情報】

会社名 リンドファーマ株式会社
Lind Pharma,Inc.
所在地 大阪府三島郡島本町
代表者 代表取締役社長 酒井芳紀
設立 2017/6/7
上場 非上場

 

【会社概要】

低分子化合物を注射もしくは経口投与することで生体内で再生を促す、”体内再生因子誘導剤治療”の開発を行うバイオベンチャーです。プロスタグランジン様の作用を持つ低分子化合物YS-1301と生分解性高分子等を組みわせた徐放性製剤により、局所で持続的な作用が示されています。現在、大阪大学の澤芳樹(同社 科学アドバイザー)と共同で、虚血性心筋症を対象とした医師主導治験が進行中です。

また、iPS細胞由来心筋細胞を用いて、ドラッグリポジショニングとしての拡張型心筋症治療薬スクリーニングのプロジェクトも進められています。

社名は”Liberation from Intractable Diseases (難病からの解放) Pharmacy”を意味しています。

本治療は現在の薬事法(薬機法)での分類上は再生医療等製品ではありませんが、「生体の持つ自己再生能力を利用して、損傷した組織の機能を回復させる」という広義の意味での再生医療にあてはまるため、再生医療ベンチャーとして紹介します。同様のコンセプトとして、ペプチドを用いた再生誘導医薬の開発を行う株式会社ステムリムがあります。

 

【事業内容】

体内再生因子誘導剤

リンドファーマ社が開発を進める体内再生因子誘導剤(以下、再生誘導剤)は、プロスタグランジン様の作用を持つ低分子化合物YS-1301です。プロスタグランジン類は、起炎症、抗炎症、血管拡張、平滑筋収縮、血圧低下、血小板凝集等、多様な作用を有する一群の生理活性物質です。YS-1301は、プロスタグランジン受容体の一つであるIP受容体に結合することで、プロスタグランジン様の作用を示します。

YS-1301は、元々は抗血小板凝集薬として小野薬品で開発が進められていた薬品です(当時の開発コードはONO-1301)。しかしながら、治験の段階で低血圧などの副作用が見られ、開発が中止されていました。酒井社長は、小野薬品時代にこのONO-1301の開発に携わっており、開発中止後も研究を重ね、抗血小板凝集薬としての投与量の1/20以下の低用量で使用した場合、副作用が見られず、肝細胞増殖因子(HGF),血管内皮増殖因子(VEGF)といった血管新生や抗線維化に関わる因子や、骨髄細胞動員因子(HMGB1)、ストローマ由来因子(SDF-1)といった間葉系細胞の動員・集積に関わる因子が誘導され、組織の再生が促進されることを見出しました。

リンドファーマ社では、このYS-1301を基に多くの疾患を対象とした複数の製剤を開発しています。

 

開発パイプライン

再生誘導剤の開発パイプライン (出典:リンドファーマ株式会社 ウェブサイト 開発パイプラインとロードマップ)

①YS-1402

生体内で合成されたプロスタグランジンは、通常数秒から数分間以内に代謝され失活します。YS-1301はより安定するような構造に設計されてはいるものの、4時間程度で代謝されてしまいます。そこで、生分解性高分子であるPLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)中に内包した徐放性剤YS-1402が開発されました。このYS-1402では、生体内でPGLAが徐々に分解され、内包されたYS-1301が徐放されることで、4週間安定した血中濃度を維持することができます。また粒子が約30μmと大きくなったことで、筋肉注射した場合に拡散せずその場に留まり、より効率的に患部に作用することができます。

現在、澤教授と共同で、虚血性心筋症を対象とした医師主導治験(第I/IIa相)が大阪大学病院で進行中です。これは、YS-1402を含有したゼラチンシートを心臓の虚血部位に貼ることで、組織の修復を促す治療法です。すでに患者への投与を完了し、2020年内に結果が出る予定となっています。その後は小野薬品が優先開発権を有しており、順調に行けば、企業治験(第IIb/III相)を経て2023~24年頃の承認申請が見込まれます。

さらに、閉塞性動脈硬化症(ASO)やバージャー病を対象とした下肢筋注投与治療法の医師主導治験(第I/IIa相)も計画されています。また、脂肪幹細胞による歯槽骨形成治療においては骨形成促進剤としての使用も計画されており、歯科領域への応用も期待されています。

②YS-1704

YS-1704は経口用に改良された製剤です。YS-1301の経口投与臨床試験においては、その血中動態に副作用発現と有効性の低さの原因があることが判明し、そこで製剤処方を改良することで、低副作用・高有効性の経口剤の開発に成功しました。

YS-1704は、まず第I相臨床再試験において安全性を確認した後、突発性肺線維症を対象とした第IIa相試験が計画されています。さらに、拡張型/虚血型心筋症(DCM/ICM)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、脳梗塞慢性期、慢性心不全等、多くの疾患を対象としたPOC確認試験(第IIa相臨床試験)が計画されています。

③YS-1603

YS-1603は、YS-1301を脂質中に内包したリポナノスフェアー製剤です。YS-1603の粒子は約100nmであり、通常このサイズの粒子は血管を透過することはできませんが、虚血・炎症部位においては血管壁の隙間が正常部位に比べ広くなっており、YS-1603は通過することができます。その結果、YS-1603は虚血・炎症の患部に集積することが確認されています。また、脂質の粒子であることから細胞内に取り込まれることができ、細胞内でYS-1301が徐放することで核内受容体に作用することも示唆されており、YS-1402やYS-1704とは異なる作用機序の薬剤となることが期待されます。

 

動物薬

YS-1301は動物治療用の薬剤としての開発も進められています。

猫では、慢性腎臓病に対する適用が考えられています。高齢の猫の30-40%が慢性腎臓病にり患していると言われており、死因の第一位となっています。この慢性腎臓病においては尿細管間質の線維化が見られることから、抗線維化剤としての作用が期待されています。一方、犬においては、弁膜症/慢性心不全治療薬としての適用が考えられています。この弁膜症/慢性心不全においても心筋の線維化が見られており、同様に抗線維化剤として有効性が期待されています。

 

iPS創薬/ドラッグリポジショニング

リンドファーマ社では、YS-1301の開発と並行してiPS創薬プロジェクトも進められています。同社ではヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた心筋線維化モデルを構築しており、このモデルを用いて、既存薬からドラッグリポジショニングとして拡張型心筋症に有効な薬剤のスクリーニングを行っています。これまでに16,000品目の薬剤からスクリーニングを行い、慢性膵炎における急性症状や術後逆流性食道炎の治療薬であるフオイパン(小野薬品)が拡張型心筋症に有効である可能性を見出す等、開発が進められています。

 

開発ロードマップ

これらの開発パイプラインに対して、以下のような臨床試験が計画されています。

再生誘導剤の開発パイプライン (出典:リンドファーマ株式会社 ウェブサイト 開発パイプラインとロードマップ)

また、将来的にはIPOを目指しており、それにより調達した資金を用い、より多くの臨床試験が計画されています。

再生誘導剤の開発パイプライン (出典:リンドファーマ株式会社 ウェブサイト 開発パイプラインとロードマップ)

 

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